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横浜地方裁判所 昭和37年(わ)288号 判決 1962年5月30日

被告人 萩原茂

昭五・一・一生 自動車運転手

清水一郎

昭六・一〇・五生 農業

主文

被告人両名を各懲役二年六月に処する。

被告人萩原茂に対し、未決勾留日数中九〇日を右本刑に算入する。

被告人清水一郎に対し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人萩原茂は、昭和三三年三月一四日大型自動車運転の第一種免許を受け、同年八月頃から群馬県群馬郡箕郷町上芝一〇五番地所在の新日本ブロツク株式会社に貨物自動車運転手として、被告人清水一郎は、前記住居地において農を業とする傍ら農閑期である昭和三六年一二月初め頃から右新日本ブロツク株式会社に貨物自動車上乗りとしてそれぞれ稼働し、いずれも同会社の製品であるブロツクを京浜方面に運搬する業務に従事していたものであり、昭和三七年一月一八日も、被告人両名は、右会社の貨物自動車上乗りである塚越竜雄(当一九年)とともに、被告人萩原茂の運転する大型貨物自動車(群一す五一八五号)でブロツク一三五〇個を横浜市南区浦舟町五丁目七七番地根建金一方に運搬した後八王子市方面を経由する帰途についたものであるが、

第一、被告人萩原茂は、同日午前五時二〇分頃右根建金一方附近路上において、同所から厚木市方面に向け右大型貨物自動車を運転出発するに際し、右塚越竜雄に対し、同人が公安委員会から自動車運転の免許を受けていないことを知りながら「お前やつてゆけ」と申し向けて右大型貨物自動車を無免許で運転するよう唆かし、よつて同人をして同所から横浜市保土ヶ谷区峯岡町一丁目三番地先路上まで右大型貨物自動車を運転せしめ、もつて右無免許運転行為を教唆し、

第二、被告人両名は、前記塚越竜雄の運転する前記大型貨物自動車に同乗中、同人が同日午前五時三〇分頃前記峯岡町一丁目三番地先路上を運転進行する際、前方不注視の過失により、同所を自動車に乗り対向して来た土田康夫(当一二年)に右大型貨物自動車の前部を衝突させ、同人に加療約三ヶ月を要する頭部・顔面各挫傷、頭蓋骨皹裂骨折、右撓骨下端骨折、右正中神経麻痺等の傷害を負わせたので、直ちに同人を救護すべく、同人を右大型貨物自動車の助手席に乗せ、厚木市方面に向け約六ないし七粁進行し、同区今宿町鶴ヶ峯附近にいたつたが、前記のように貨物自動車の運転により人に傷害を与えた場合においては右貨物自動車を運転していた右塚越及び右貨物自動車の運転手である被告人萩原は負傷者の救護をすべき義務があるにかかわらず、被告人萩原は被告人清水および右塚越竜雄に対し前記各犯行の発覚を免かれるため、右土田を救護しないで路上に置き去つて逃走することを諮り、被告人清水および右塚越もこれに同意し、ここに被告人両名および右塚越は共謀のうえ、右土田康夫が前記傷害により顔面から出血し、意識も明確でない状態で一見してかなりの重傷を負つていて、しかも当時は夜明前で未だ暗いうえに寒気厳しく降霜しているので、長時間人に発見され難い場所に遺棄した場合には同人の死に至るかもしれないことを認識しながら、敢て同人を遺棄して死に至ることあるもやむなしと決意し、その場所を探しつつ同所からさらに約九粁走行し、同日午前六時頃大和市下鶴間二七六二番地先県道上にいたり、同所が最寄り人家から五〇米ないし三〇〇米離れた畑の中の路で、当時人通りがなく、容易に人に発見される見込みのない場所であることを見定めて停車し、右土田康夫を右大型貨物自動車の助手席から降霜せる路上に引きずりおろし、同所に横たえたまま放置し、もつて同人の救護措置を講じないで逃走したが、偶々同人が間もなく意識を回復して約三〇〇米離れた同市下鶴間二七四五番地北村敏行方に辿りつき救護を求めたため、土田康夫を死亡させるに至らなかつた

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人萩原茂の判示所為中第一の道路交通法違反教唆の点は同法第一一八条第一項第一号、第六四条、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第六一条第一項に、第二のうち道路交通法違反の点は同法第一一七条、第七二条第一項前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第六〇条に、殺人未遂の点は同法第一九九条、第二〇三条、第六〇条にそれぞれ該当するところ、判示第一の道路交通法違反教唆の罪につきその所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の道路交通法違反の罪及び殺人未遂罪は一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから刑法第五四条第一項前段、第一〇条によつて重い殺人未遂罪の刑に従い、その所定刑中有期懲役刑を選択し、右は未遂であるから同法第四三条本文、第六八条第三号により法律上の減軽をなし、尚以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条により重い殺人未遂罪の刑に同法第四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役二年六月に処し、同法第二一条を適用して未決勾留日数中九〇日を右本刑に算入することとし、被告人清水一郎の判示所為中道路交通法違反の点は同法第一一七条、第七二条第一項前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第六〇条、第六五条第一項に、殺人未遂の点は同法第一九九条、第二〇三条、第六〇条にそれぞれ該当するところ、右は一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから同法第五四条第一項前段、第一〇条によつて重い殺人未遂罪の刑に従い、その所定刑中有期懲役刑を選択し、右は未遂であるから同法第四三条本文、第六八条第三号により法律上の減軽をした刑期範囲内で同被告人を懲役二年六月に処し、犯罪の情状刑の執行を猶予するのを相当と認めるので同法第二五条を適用して本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条によりその全部を被告人両名に連帯して負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田作穂 早川律三郎 三宅陽)

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